こもれびより ~commoré-biyori~ vol.17「山月記を読む」レポート

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去る8月28日、こもれびより Vol.17 「山月記を読む」と題し、こもれびとして初の朗読会を、初の配信形式で開催しました。

これまではこもれびに足を運んでいただき、同じ場所、同じ空間を共有することに重きを置いてきましたが、昨今の時勢を鑑みて今回はzoomを使っての配信でした。

 

開催に至った経緯はコチラから

 

当日、スタートは14時から。

Peatix やメールでお申し込みくださった参加者のみなさんとzoomを繋ぎました。

少しでも綺麗な音で朗読を、とマイクをセットして、今回の進行はスタッフ根本にお任せしました。

 

最初の数分でイベントの概要紹介をしたのち、根本による作品解説が始まります。

下調べに裏打ちされた語り口はラジオさながら、当時の時代背景にまで遡って、「山月記」の位置づけや作者・中島敦の生涯について短くまとめました。

 

そしていよいよ本編。

いくら短編小説とはいえ全編を(しかも三言語で)朗読するわけにはいかないので所々端折って読むことになるわけですが、話の繋がりが見えるよう、朗読で飛ばしてしまう箇所については引き続き、根本による要約を挟みました。

まずは冒頭、主人公である李徴が詩人として名声を得る夢半ば、生活との折り合いをつけるために官職を転々としている間に自分の置かれた状況に我慢ならず発狂して虎になるところまで(ここまで短くまとめてしまうとずいぶん突飛なあらすじに聞こえますが)の紹介。

 

次いでいよいよ、朗読が始まります。

 

「今から一年程前、自分が旅に出て汝水のほとりに泊った夜のこと、一睡してから、ふと目を覚ますと、戸外で誰かが我が名を呼んでいる」

 

という一節から始まる数行を根本が日本語で読むと、次は田邉による英語朗読。

 

“About a year ago I was dispatched to the south on some paltry errand. On my way I spent the night by the River Ju. I retired early and went to sleep almost at once, but after what seemed a short time, I was awakened by a strange voice outside calling my name ...”

 

そしてまた日本語に戻り、根本が続けます。

 

「(少し明るくなってから、谷川に臨んで姿を映して見ると、既に虎となっていた。)自分は初め眼を信じなかった。次に、之は夢に違いないと考えた。夢の中で、之は夢だぞと知っているような夢を、自分はそれ迄に見たことがあったから」

 

また同じ個所を、今度は志村がフランス語で続けます。

 

« Au début, il ne pouvait en croire ses yeux. Ensuite, il pensa que ce ne pouvait être qu’un rêve. Car il en avait déjà fait, de ces rêves où l’on se dit, attention c’est un rêve, alors qu’on est en train de rêver... »

 

この調子で日→英→日→仏と交互に、日本語で読んだ箇所を英語、フランス語で辿り直すように、だいたい2ページ分の文章を朗読しました。

 

ここで李徴は虎に変身してしまった自分をすぐには受け入れられないまま、日に日に獣の魂に蝕まれていく人間の心を思っては苦悩します。

 

そこから先、李徴が旧友の袁傪とその一行に頼み込んで虎に成り果てた我が身を詠った詩を書きとってもらうパートは再び根本による概要紹介に留めたのですが、そこで披露される漢詩を、今度は根本による中国語朗読で味わうこともできました。

日本語とも、英語とも、フランス語ともまったく違う響き。八句からなる律詩を読む間1分足らずでしたが、前後と隔絶された不思議な時間が流れたような気がしました。

 

そこからは、李徴が己の運命と向き合い、内省に耽り、袁傪一行に自身の家族へ向けた言付けを頼むところからラストまで、日本語→フランス語→英語の順番で同じ文章の「回し朗読」をしました。

聴いている方も疲れたんじゃないかと思いますが、終わったあと何名かの方に「贅沢な時間だった」と言っていただいたのが印象的でした。音声をそのままお届けできないのが残念ですが、最後に読んだ箇所の一部を少し長めに引用します。

 

「何故こんな運命になったか判らぬと、先刻は言ったが、しかし、考えように依れば、思い当ることが全然ないでもない。人間であった時、己は努めて人との交を避けた。人々は己を倨傲だ、尊大だといった。実は、それが殆ど羞恥心に近いものであることを、人々は知らなかった。勿論、曾ての郷党の鬼才といわれた自分に、自尊心が無かったとは云わない。しかし、それは臆病な自尊心とでもいうべきものであった」

 

« Pourquoi ce destin ? Il disait tout à l’heure ne pas comprendre et pourtant, à la réflexion, il n’était pas sans avoir quelque idée là-dessus. Il s’était employé, du temps qu’il était homme, à éviter tout commerce avec autrui. Les gens racontaient qu’il était hautain, qu’il était orgueilleux. Ils ne savaient pas que c’était en réalité de la pudeur, ou quelque chose d’approchant. Bien sûr il n’allait pas prétendre, lui qui passait autrefois dans son village pour un enfant prodige, ne pas avoir connu l’orgueil. Mais il faudrait parler s’une sorte d’orgueil pusillanime. »

 

“Earlier I told you that I ignored the cause of my transformation. And so at first I did. In the past year I have, I think, come to perceive at least a glimmering of the truth. In my human days, I retired to my home town, as you know, and shunned the company of men. People thought my behavior arrogant and haughty, not realizing that in large part it sprang from diffidence. I shall not pretend to you that I, the reputed genius of the town, was entirely devoid of pride. But mine was a timid pride―the pride of a coward.”

 

 

また、今回の朗読にあたっては以下の書籍を参考にしました。

 

<日本語>

「山月記」『中島敦全集1(ちくま文庫)』1993, 筑摩書房

<英語>

“TIGER-POET” 訳 Ivan Morris, Modern Japanese Stories, 2005, チャールズ・イ・タトル出版

<フランス語>

« MONTS ET LUNES » 訳 Véronique Perrin, Histoire du poète qui fut changé en tigre, 2010, Allia

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