こもれびより ~commoré-biyori~ vol.10「Les Petits Princes~翻訳の向こう側~」 レポート

 こんにちは。語学塾こもれびの根本です。本年もどうぞよろしくお願いいたします。
 

 さて、語学塾こもれびでは2018年12月21日(土)に、こもれびよりVol.10「Les Petits Princes〜翻訳の向こう側〜」を開催しました。以下、当日の様子をレポートします。
 

 2ヶ月に1度開催しているイベント「こもれびより」。2018年の6月に第1回を開催して以来、今回で10回目となりました。ひとえに、これまでお越しくださった皆さまのおかげです。本当にありがとうございます。
 そんな10回目は、「翻訳」をテーマにしました。これは、その少し前に「英仏カフェ」で実践した「同じ作品の同じ部分を複数の言語で読み比べてみて、最後に改めて日本語を検討してみる」という試みが予想以上に面白く、「こもれびより」でもやってみようじゃないか、と思い至ったことによります(ちょうど、「ことばの本屋Commorébi」で複数言語の『星の王子さま』を収集していたのでした)。「王子さまがたくさんいる感じが良いですね」という私の言葉に閃いた志村により、「Les Petits Princes」となりました。フランス語を知っている人はもちろん、知らない人にも「あれ、なんかちょっと不思議なタイトルだぞ…?」と思っていただけるのではないか、という期待とともに。
 

 今回は事前にイベントで取り上げる部分をお知らせし、可能であればある程度準備をしてきていただくことにしました。その上で、比較的使用者が多いと思われる言語、すなわちフランス語・英語・イタリア語・スペイン語・中国語の5言語と、多くの言葉の”祖先”であるラテン語と古典ギリシャ語について、該当箇所を抜き書きをし、レジュメとしてお配りすることとしました。余談ですが、このレジュメを準備する作業自体もとても楽しく、少しずつ様々な言語が集合していく様子はワクワクものでした。

 そして迎えた当日。お申し込みが17名とスタッフが3名の計20名という人数は過去最多。直前になってグッとお申し込みが増えたこともあり、「椅子は足りるか」「スリッパは足りるか」とスタッフ全員で青くなったのも、本当に「嬉しい誤算」でした。
 皆さんお揃いになり、簡単な自己紹介の後、いよいよイベントスタートです。
 

 まず扱うのは第1章の冒頭。レジュメに書かれた言語をそれぞれ音読してみることから始めました。さらには、古典ギリシャ語ではなく現代ギリシャ語、はたまたポルトガル語、アラビア語での音読をしてくださる方がそれぞれいらっしゃり、音を聴いているだけでもボルテージが上がります。(当然と言っては当然ですが)似ている音が聞こえてくる言語とまったく他とは違う音が聞こえてくる言語があります。
 音読を聴き終わると、中身の検討の時間。例えば以下の部分を見てみましょう。
 

 [フランス語]
 On disait dans le livre
 

 [英語]
 In the book it said
 

 [イタリア語]
 C’era scritto
 

 [スペイン語]
 El libro decia
 

 フランス語は不定代名詞の“on”を主語にして、“dire”(言う)が使われています。ですが、例えばイタリア語では”scrivere”(書く)が使われていたり、スペイン語では“El libro”(本)が主語になっています。もちろん、それぞれの翻訳者の好みや癖もあるのでしょうが、(おそらくどれもが)原文のフランス語を出発点としつつも、光の当て方というか力点の置き方が異なる様子が見て取れるのではないでしょうか。
 ちなみに冒頭部分で盛り上がったのは「ボアをどうするか」問題。原文では“un serpent boa”と書かれていますが、これをなんと訳したものやら。定番の内藤濯訳では「ウワバミ」と訳されていますが、ウワバミも決して全員が全員、知っているものではありません。「大酒呑みの大蛇」というイメージがあれば良い方です。ちなみにウワバミは漢字では「蟒蛇」と書くようで、これは中国語訳にそのまま使われています。ものによっては「ボア大蛇」としているとのことでしたが、たしかにこうすれば大きなヘビであることは分かります…が、どうにも語呂がよろしくない気もします。いっそのこと「ボア」という名前を捨てて、「大蛇」だけにしてしまう、というのも一つの方法かもしれませんね。
 ここで改めて内藤訳の『星の王子さま』(1962年)と、手元にある野崎歓氏訳『ちいさな王子』(2006年、光文社古典新訳文庫)の日本語を引用しておきます。この両者を比べてみるだけでも、「まずタイトルをどう訳すか」というのが検討事項となるのがよく分かりますね。
 

【内藤訳】
 六つのとき、原生林のことを書いた「ほんとうにあった話」という、本の中で、すばらしい絵を見たことがあります。それは、一ぴきのけものを、のみこもうとしている、ウワバミの絵でした。

 

【野崎訳】
 六歳のとき、すばらしい絵を見たことがある。『本当にあった話』という題の、「原生林」についての本で見たんだ。ボアが猛獣をのみこもうとしている絵。

 もう一つ取り上げたのは、第18章。王子さまが地球で一輪のバラに出会うシーンです。ここもまた、音読に続いて中身を見てみました。
 この箇所で特に塾長・志村が気になったというのが、フランス語だと“Le vent les promène. ”と書かれている箇所。ちなみに英語だと“The wind blows them away. “となっています。
 志村曰く、フランス語の”promener”は「散歩させる」という訳語が当てられることもあることからも分かるように、「吹き飛ばす」というほど強い風のイメージではないとのこと。イタリア語では“spingere”(押す)、 スペイン語では”llevar”(運ぶ/持っていく)が使われています。それに対して英語の”blow away”はやや強すぎる印象を抱いたと志村は言います。「英語」で「風が吹く」というとつい、Bob Dylanの”Blowin’ in the Wind”が思い浮かびますが、なるほどあの曲も、「答え」が「風に吹き飛ばされている」という解釈をすることもできます。このあたりは、「風」というものに対する意識の違いが現れている箇所なのかもしれません。

 さて、この第18章についてはあえて既存の日本語訳を参照することなく、複数の言語で読み比べてみたことで見えた「景色」を元にして、参加者の皆さんにそれぞれ自分なりの翻訳をしていただきました。志村からは「あえてどの言語も読み返すことなく、ご自分の中のイメージを膨らませて書いてみると良いですよ」とのアドバイスもあり、しばし皆さん、黙々と文字を書く時間です。
 

 以下、参加者の皆さんによる訳文です(順不同)。



星の王子さまが砂漠をつっきると、一人の花に出会った。
花びらが3つの、何でもない花。
「おはようございます」王子さまは言った。
「おはよう」花が言った。
「人間を見ませんでしたか?」王子さまは尋ねた。
花は、キャラバンを見たことがあった。
「人間?何年か前に見たわよ。6、7人いたわね。でも、今どこにいるかは、知ったこっちゃないわ。風が彼らを吹き飛ばしてしまったのよ。人間には、地に張る根っこってのがないんだもの」
「さようなら」王子さまは言った。
「さよなら」花が言った。




王子様は、砂漠を進んで、ただ一輪の花に出逢った。花びら3つのなんの取り柄もない花だった。
「おはよう」
王子様はあいさつした。
「おはよう」
花は答えた。
「みんなはどちらですか?」
王子様は行儀良く尋ねた。
花はずっと以前、旅の一団を見たことがあった気がしていた。
「みんな?」と花。
「6だか7だか、いたような。いえ、確かに見たわ、いつぞやに。けど、もうどこでどうやって会えるのか だーれも知らないわ。
ここでは風が吹いて飛ばしてしまうもの。みんなには根が生えていないものね。かわいそうに。」
「元気でね」と王子様が言った。
「そうね」と花が応えた。




王子さまは砂漠を横切って一輪の花を見つけた。3つの花びらの花、何ということもない花。

おはようございます。王子さまは丁寧に声をかけた。
おはよう。花は応えた。

人はどこにいるのでしょうか。王子さまは尋ねた。

キャラバン隊が通り過ぎるのは見たけどね。
5、6人はいたかなあ。でもずっと昔のことだし、どこに行っちまったかもうわからないよ。風に吹かれていなくなったから。
人は根なし草。だめな生き物さ。
人もそれが悔しいんだろうけどね。
さよなら。
さよなら。




 砂漠を旅していると,王子は花に会った。花びら3枚の,なんでもないような・・・
「こんにちは。」
「こんにちは。」
 王子はインギンに訊ねた。
「どこかに人はいませんでしたか。」
 花はいつだったか,旅の一行をみたことがあった。
「人,ですか? ええ,まあ6人か7人くらいは。でもずいぶん前の話だから,どこにいるのかはわかるわけない。風にながされていくの。根っこがないのはご苦労なことでしょうね。」
「さようなら。」
「さようなら。」




王子が砂漠を歩き続けたのにもかかわらず、出会えたのは三枚の花びらがついたただの花だけだった。
「こんにちは」と王子は言った。
「こんにちは」花が返す。
「ここに人間はいないの?」王子はたずねた。
「人間?6、7人ならいるわよ。まぁ何年も前に見かけただけだけどね。ただ見つけるのは難しいんじゃないかしら。あいつらはさすらいの商人だから。私たちみたいに根っこがないの (笑)」
「さようなら」王子は言った。
「さようなら」と花は返した。




 王子さまは砂漠を越えていき、ただ一輪だけ咲いている花に出会いました。花びらが3つある何でもないような花です。
 「こんにちは!」と王子さまは言います。
 「ご機嫌よう」と花は答えます。
 「人間はどこにいますか?」と王子さまは礼儀正しく聞きます。
 花は以前、キャラバン隊が通り過ぎるのを見たことがあったので、こう答えます。「人間?たぶん6人か7人かはいるわ。何年も前に見たもの。でもその人たちがどこに行ったかは分からないわ。風がみんなを運び去ってしまったの。人間というのは根っこがなくて大変ね」
 「さようなら」と王子さま。
 「ご機嫌よう」と花。




砂漠を横切ると、王子さまは一輪の花に出会った。花びらが三枚の、なんの変哲もない花。
「こんにちは」と王子が言い、
「こんにちは」と花が返すと、かしこまって王子は尋ねた。
「人間はどこにいるんでしょうか」
花は一度だけ、キャラバンが通りかかるのを見たことがあった。
「人間?六、七人はいるんじゃないかしら。何年も前に見かけたわ。どこにいるかはわからないけど。風が彼らをさらって行ってしまうのよ。人間は根っこもなくて大変でしょうに」
「さようなら」と王子は言った。
「さようなら」と花も言った。




はじめからわかっていたのかもしれない

たくさんの時間が必要なことを

はじめからわかっていたのかもしれない

その花はきっと、僕がいた星に残してきたあの花とは違うということを

________________________________

僕からこんにちはと言った。

きっと彼女からあいさつがないことをわかっていたから。

彼女もこんにちはと言った。

そう聞こえた、こだまじゃなければ。


ーねえ
ーなに

ーきいてもいい?
ーいいわよ

ーここに人はいるの?


ーそうね、ずっと前に見たわ。どこに行ったか知ったこっちゃないけど。


ーそう


さよならを言った

それを聞いて僕は、何か頭に浮かんだのだけれど何を言っていいのかわからなくて。

さよならを言った

彼女は、またかという風に、はじめて見た僕を見つめながら。

_________________________________

気づいたかもしれない

そして、あの花を思う

気づいたかもしれない

風を少し感じながら、ぼくは

 以上、8つの訳文を並べてみました。短い章ですが、人によって様々な違いがあるのが分かります。例えば、「花」を女性とするか男性とするか、もしくは特に性別を限定しないか。例えば、はじめの挨拶を「おはよう」とするか「こんにちは」とするか。例えば、先ほども見た「風が吹く」ところをどうするか。訳文を見比べると、それぞれの人の中にそれぞれのイメージがあるのが見えてきます。人によっては、さらにイメージを膨らませて、「翻訳」にとどまらない「翻案」にまで至ったことも分かります。
 実はこの「日本語に戻ってきた」、その場所こそが、イベントの副題にもある「翻訳の向こう側」と言えるのではないか、というのが、イベントを企画した時に考えたことでした。いくつかの日本語訳を読み比べてみるだけでもイメージは膨らむことと思います。ですが、それだけではなく、他の言語を経由してそれぞれの言語習慣のようなものの一端に触れてみることで見えてくるものがあるのでは、という仮説の下、それぞれの訳文を練ってもらった次第です。そしてその結果、まさに十人十色の『Les Petits Princes』が生まれたと言えるのではないでしょうか。
 改めまして、ご参加いただいた皆さまにお礼申し上げます。本当にありがとうございました。
 

 そして翻訳が終わった後は、こもれびにお通いいただいているA様が作ってくださった美味しいお菓子を囲んでの歓談タイムとなりました。盛り上がりすぎて写真を撮り損ねてしまいましたが、今回も素敵な差し入れをありがとうございました。
 

 さて、次回、第11回のこもれびよりは、2月22日(土)14時〜16時の開催予定です。内容の詳細は未定ですが、「何気なく使っている言葉でも、改めてその意味やニュアンスについて他の人と提示し合ってみると、意外と違っているのでは…?」という気づきをきっかけに、そういったことに関連した内容になるかもしれません。具体的には、先日志村が「根なし草」という言葉の印象についてTwitterでアンケートを取ったところ、「ポジティブ」派が24%、「ネガティブ」派が76%となった、というようなものです。ちなみに志村自身は「ポジティブ」派、わたくし根本は「ネガティブ」派で、日頃身近に接して言葉を交わしている間柄でも認識に相違があります。そう考えると、私たちが信じている「意味」がいかに頼りないものかが分かるような気がします。
 いずれにせよ、詳細が決まり次第Twitterなどでお知らせさせていただきます。ご都合がつきましたら、足をお運びいただけますと嬉しいです。

開校時間

火~金 16:00~21:30

所在地

〒185-0012 東京都国分寺市本町2-22-2第一鴨下ビル201

代表者

田邉 優

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