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2019年10月 ことばの本屋Commorébi 今月の1冊 『考えるための日本語入門』

最終更新: 2019年10月7日

書誌情報

タイトル:『考えるための日本語入門―文法と思考の海へ― 』

著者: 井崎 正敏

出版年月:2018年11月

出版社:三省堂


 外国語学習を続ける一方で、いつしか日本語のことが気になって仕方がなくなってきた、それは例えば、「日本語ではこれとあれを区別しないけれども、この言語ではするんだな」とか、「この文を日本語に翻訳するに際して、どうすれば日本語らしい日本語に(ただし原文の意味を失うことなく)できるだろうか」といったシーンのことである。そして、日本語のことを気にすれば気にするほど、いかに日本語話者である自分が日本語のことを体系的に知らないかを思い知らされるのである。身に付いてしまった第一言語を改めて見つめ直すのは、意外と難しい。


 そんなこともあり、一時のブランクがありながらもここ10年近く、「日本語論」のようなものを折に触れて手に取ってきた。当然ながら日本語で読める日本語論は歴史も長ければ、数も多い。そして、かつては主流だった学説が後年になって覆され、さらにそれにまた批判が加えられ…と、絶え間なく流動していく(もちろんそれは、私が手に取ったのがたまたま日本語論であるだけで、どの言語に関する論であってもそれは変わらないだろう)。


※ ※ ※


 先日手に取ったのが、今回紹介する『考えるための日本語入門―文法と思考の海へ―』。著者の井崎氏は言語学者などではなく、東大文学部の倫理学科を卒業した後、筑摩書房にて「ちくま学芸文庫」などの編集長を歴任された方とのことだ。本書の性格を「あとがき」から引用しておきたい。


 入門と題した書物は、ふつうその道の大家が初学者に向けて、分かりやすく手ほどきしたものである。ところが本書は、私自身が入門し、探求した足跡を記したものだ。つまり、すこしだけ早くその道に踏み入った者が、僭越にも読者の方々を道案内しようという試みである。(p.220)

 本書を開くと気づくが、これまで行われてきた日本語研究が、順を追って丁寧に紹介され、読むものをナビゲートしてくれる。「研究者ではないのにここまで調べるのは大変だっただろう」と思いながら読み勧めていたところ、あとがきに先ほどのような記述があった次第。なるほど、まさしく著者が辿った道のりだったのである。

 その意味で、本書は必ずしも何か新たな日本語論を提示する、というものではないが、これまでそれぞれの研究者が提示してきた学説を批判的に検討しつつ、「日本語で考える」ことの意味を探求する、興味深い一冊だ。ところどころやや複雑な議論もあるが、各章の末尾にある「この章のまとめ」が理解の助けになる。

 また、大学で倫理学を専攻した著者だからか、「ある」をめぐるハイデガーの議論を参照するなど、文法論だけに終始しない点もまた、本書に彩りを与えている。


※ ※ ※


 全体の構成としては「こそあど言葉」、中でも「そこ」に関する考察から始まり、助詞の「は」、「が」、そして「私」を経て「ある」へと展開していく。


 日本語には、「は」で示された話題からはじまる題述文が多い、このことは、日本語がつねに聞き手による了解を確認しながら、話を進めていく言語だということを物語っている。
[…]話題と述部との関係は、述部が話題についてのなんらかの説明になってさえいれば、かなりルースなつながりであっても、文法的には許容された。[…]
 しかし日本語がこの題述文を好むからといって、日本語が論理的でないと結論づけるのは早計であり、主語+述語型の構文だけを物差しにした言い方にすぎない。題述文は、ねじれに気をつけさえすれば、論理を確保しながら、のびのびと言葉を展開できる、自由な枠組みなのである。(p.97)

 しばしば耳にする「日本語は非論理的な言語だ」との言説に、筆者はこのように反論を試みる。この反論の妥当性は私には判断できないが、いずれにせよ、早計な断定に対して否を唱えることは重要だと思う。


 この手の本を多く読んできた人にとっては、本書の内容は特段目新しいものではないかもしれない。ただ、「入門」と銘打ち、筆者自身が辿った思考の跡をトレースできるものであるため、「これまで日本語について体系的・客観的に見たのは、学校の国文法の時間くらい」という人にとっては、「なるほど、普段自分が何の意識もせずに使っている日本語というのは、このような性質を持ったものなのだな」という気づきの端緒になるはずである。


 本には、知りたいことに対する答えそのものが書かれているのではない。それを始まりにして考えや探求が広がっていくことこそが、本の真価だと思う。


 本書を手がかりにして、改めて日本語について考えてみませんか。



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