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芬語に誘われて

最終更新: 1月30日


「芬語」と書かれてピンと来る人は、どのくらいいるのだろう。

読み方は「ふんご」(でいいと思うのだけど)かく言う僕もこれがいったい何語を指すのか、つい最近まで知らなかった。


この見慣れない二字熟語の正体がわかったのは、稲垣美晴氏のエッセイ『フィンランド語は猫の言葉』を読んだおかげ。 

初版はなんと1981年ということで今からちょうど40年前。以後たびたび文庫化され、僕が手に取ったのは2019年に角川文庫から出版された最新版。何を隠そう、我らが黒田龍之助先生が解説を担当されている。

読んでみると、フィンランドの文化は僕には馴染みがなく目新しいけど、よくわからない外国語に立ち向かう日本人の苦悩や葛藤は身に覚えのあるものばかりだった。


ページを繰ると、フィンランド語を勉強してみたくなった。語学には勢いが肝心、と僕もよく言う。思い立ったが吉日、気になるならすぐにでも始めたらいい。ただ、熱しやすいものは冷めやすいというのもまた事実。昔かじった韓国語も、「やるぞ!」と意気込み過ぎたあまり長続きしなかった。


なので今回は敢えて弱火でコトコト作戦。すぐに参考書は買わない。代わりに、違う形で布石を打っておく。例えばYoutubeでフィンランド語の音声を聴いてみる。アルゴリズムが働いて、勝手に関連動画をおすすめしてくるようになる。なんとなく目に入る頻度が増える。


それからWikipediaで「フィンランド語」と検索してみる。北欧、とくにノルウェー、スウェーデン、フィンランドは一括りにされやすいが、ノルウェー語、スウェーデン語が同じゲルマン語派に属するのに対しフィンランド語はひとりウラル語族に属することを知る。北「欧」と言ったってインド・ヨーロッパ語族ですらないため、英語やフランス語、ドイツ語などの力を借りた類推は通用しない。それでいっそう興味が湧く。 


そんな折、ご近所の胡桃堂喫茶店さんの本屋「胡桃堂書店」( http://kurumido2017.jp/books/ )で、新しくフィンランド生まれの絵本の取り扱いが始まったと知る( https://twitter.com/kurumidoshoten/status/1348629041641766915 )。

これは、と思いさっそく胡桃堂喫茶店へ。何やらスタッフの皆さんが会議をしている最中で、店主の影山知明さんもいらっしゃった。お取込み中すみません、と呟きながら目当ての本へ飛びつく。

さっそく持って帰って読んでみると、これはいつもの癖だけど、今度は原著で読んでみたくなった。絵本の出版社「KORVAPUUSTI」さん ( https://shop-korvapuusti.com/ ) のページを覗いてみると残念ながらフィンランド語版は在庫切れ…と思いきや、念のため問い合わせをしてみたら在庫に未追加の再入荷分があるというのですぐに取り寄せた。二日ほどで届き、すかさずページをめくってみる。さて、、、、読めない。


それはそうである。勉強もしていない外国語の本を読めるわけがない。しかし有難いことに、レターパックには別紙でフィンランド語からの「直訳」日本語文が添えられていた。皆川明訳の日本語版『TUULEN VUOSI 風と出会う日々のこと』は「意訳」が主ということで、出来る限り原文そのままの和訳文を原著購入者限定ということで同梱してくれていたのだ。

絵本の内容は一年を通して各月の「風」の表情を描くというもの。たとえば「4月」のところは日本語版では「凧さんとっても広い空 私に乗ってふわり、ふんわり」とあるが、直訳を見ると原文 « (Huhtikuussa) lennättelen leijoja leppoisasti taivaalla. » は「私は空にカイトを飛ばします」とだけ書いてあるらしい。なんだか味気ないように思えるが、それはまだこのフィンランド語文が “聴こえてこない” からだ。


いい具合に火が通ってきた、と思い、満を持して『ニューエクスプレスプラス フィンランド語』(白水社)を買ってみた。巻頭についているQRコードを読み取ってアプリを入れるだけですぐに音声が聴けるのも嬉しい。フィンランド語の音声は、なんというかのっぺりしている。全体的に下がり調子。イタリア語に代表される地中海的な溌剌さとは対照的…に聞こえるけど、これをうっかり「北の国は暗いから」みたいな印象論に回収させてはまずい。

とはいえ印象も大事だ。「こんにちは」はフィンランド語で « hyvää päivää » (ヒュヴァ―パイヴァー) と言うのだが、なんだかこの発音が気に入った。それほど摩擦を強調しない「ヴァ―」もリズミカルだし、フランス語ばかり喋って久しいので、外国語を読むときに “h” を発音していいのが逆に新鮮で気持ちがいい。


フィンランド語を勉強したい、という積極的な思いや理由はとくにない。けれど、もしかしたら僕らは外国語を勉強するときに理由を求めすぎなのかもしれない。なんとなく面白そうだから、そんなふわりとした理由で始めても、言葉は風のように必ずどこかへ連れて行ってくれる。


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