• こもれびスタッフ

サルトルとチョコレート

 こんにちは。こもれびでフランス語を学んでいる秋本です。

 先日のフランス語の授業がとてもこもれびらしくて印象深かったので、今回はその様子をかいつまんでお伝えしたいと思います。「語学塾こもれびという存在はなんとなく気になっているけれど、そこではいったいどんな授業が行われているのだろう…?」という疑問をお持ちの方もいらっしゃると思いますので、少しでもご参考になれば幸いです。


※ ※ ※


 私は今、こもれびで塾長の志村氏と一緒に、サルトルの『存在と無』を読んでいます。家の中を整理していたらフランス語による原書が見つかり、これ幸いとこもれびに持参し、ちびちびと(本当にちびちびと)進めているところです。

 記念すべき第1回はまず、” Sartre”の発音から。どうしても「サルトル」というカタカナ表記に引きずられてしまいますが、「これは1音節です。あ、それでは”t”の後ろに母音が少し入ってしまっていますよ」という志村氏の指導の下、なんとか正しく名前を呼べるようになりました。正しく名前を呼ぶ、これは大切なことです


 そして先日は、以下の文を扱いました。


 "On visait par là à supprimer un certain nombre de dualismes qui embarrassaient la philosophie et à les remplacer par le monisme du phénomène. Y a-t-on réussi?"


 この前の文では現代思想の進歩について書かれており、それを受けた2文目~3文目です。


 こもれびで読み進めるにあたって、自分に課した課題がありました。それは、「まずは自分の力で読み解いてみること」。志村氏に説明してもらいながら読むこともできるでしょうが、そうではなく、事前に辞書や文法書、はたまた既存の翻訳などを駆使して文の構造を明らかにし、自分なりの訳文を作ってみるのです。学生時代、ハイデガーの『存在と時間』をドイツ語で購読する演習があったのですが、その再現という感覚です。自分で読み解いてきたものを志村氏に披露し、違うところがあれば指摘してもらう――そんな形で進めたかったのです。


 そんなわけで、先ほどの文を一生懸命解読して、説明していきます。この文では、” visait”と” embarrassaient”は半過去、” a réussi”は複合過去となっています。そのこと自体は分かりましたし、半過去と複合過去のニュアンスの違い(半過去は未だ完了していない過去、複合過去は完了した過去、というくらい)も文法書を読んでなんとなくは分かりました。ですが、両者の正確な違いまでは自力では分からず、志村氏に教えを請います。


 すると志村氏は、私と一緒の時間に授業を受けていた中学生の生徒さんに、おもむろにチョコレートを渡しました。そして、「これを3口以上で食べてください。そして、食べ終わったと思ったら手を挙げてください」とお願いしたのです。そう言われた生徒さんはノリノリで、ちまちまとチョコレートを口にした上、すべてを飲み込んだ後も余韻を味わい、しばらく経ってから手を挙げたのでした。

 「さて、彼がモグモグしていた間を指すのが半過去、手が挙がった時を指すのが複合過去です」と言う志村氏。

 さらに生徒さんに問いかけて曰く、「今、チョコレートはどこにありますか?」と。

 生徒さん答えて曰く「お腹の中です」と。

 「そうですね。そして、複合過去を使うということは、『今、チョコレートは彼のお腹の中にある』という現在とのつながりも示唆することになります」と志村氏は続けます。

 なるほど、チョコレートの例を応用して考えると、先ほどの文においては、人々は過去において「取り除く」ことと「置き換える」ことを継続してきたのであって、(現在との関係を念頭に置きつつ)それが「成功したか」を問うているわけなのでした。


 チョコレートを実食しながら半過去と複合過去について考えるというのは、なかなか珍しい授業風景なのではないかと思います。


 そして、授業の進め方もさることながら、何よりも「こもれびらしいなぁ」と思うことがフランス語を解読したその先にあります。それは、「書かれている内容についてともに検討すること」。

 言わずと知れたサルトルの『存在と無』ですから、内容の理解は一筋縄ではいきません。先ほど挙げた文の前には「現代思想の進歩」について書かれていた、と述べましたが、ではサルトルが想定している「現代思想」とはいつからいつのものを指すのか、ということから始まり、「哲学を惑わせてきた二元論」とは具体的には何か、はたまた「一元論への置き換え」とは具体的には何か…等々、疑問は尽きません。その他、例えば「存在しているものを、それを明示する現れのひとつながりへと還元する」と書かれている(直訳です)箇所について、フランス語を日本語に置き換えただけでは残念ながら意味が分かりません。「存在しているものを現れへと還元するとはどういうことか」ということの意味やイメージをつかむ必要があります。

 この点、志村氏と一緒に購読すると、「ここはどういったことを意味しているんですかねぇ」という内容面の話にまで付き合ってくれます。私も志村氏も「哲学研究者」ではないのでアカデミックな立場の方からすれば我々の読みは必ずしも正解、もしくは正統ではないのかもしれません。ですが、「フランス語教師とともに頭を悩ませながら理解に至る」面白さは、「哲学研究者の導きによって理解に至る」面白さとはまた違った趣があるように思います。

 こもれびのコンセプトは「じぶんの言葉で考える」ですが、まさにそれが実践できていることを実感し、嬉しくなりました。


※ ※ ※


 あまりにも少しずつ読んでいるので、果たして最後まで読み終わるのはいったい何十年後になることやらといったところですが、何かとせわしないこの世の中、一つくらいのんびり進むものがあっても良いのでは、と思う次第です。

 それでは、また。


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